「オノツテ ビルヂング」は、尾道の中心市街地にある解体の危機にあった近代建築「旧小野産婦人科医院」を再生した複合施設です。元院長である「小野鐵之助(テツノスケ)」は名誉市民である画家「小林和作」と親しく、この建物には和作の貴重な壁画の残っています。その壁画のある1階はまちに開かれた店舗として、2階は中長期滞在施設「ONOMICHI STAY オノツテ」として再生されました。観光による活性化が進む一方で人口減少が続く中心市街地において、まちの歴史を物語る「オノツテ ビルヂング」が拠点となり、まちなか居住へと繋がる「オノミチ」で「ツテ」をつくるきっかけになることを願っています。
Story
元院長である小野鐡之助(1903~1990 年)は岡山県金光町生まれ、北海道大学医学部卒の産婦人科医でした。助手、講師を務めたのち1933 年に尾道で開業しています。尾道を代表する画家・小林和作と親しく、尾道美術協会、文化連盟、随筆クラブ設立など尾道の地域文化を支援し、その発展に貢献しました。自身も油絵を描き、独立展に入選するなどしています。
旧小野産婦人科医院は、彼によって昭和13 年(1938 年)に建設されました。ここ十四日元町は近世から現代まで物流・商業の結節点として栄えた場所です。T字路の角地に南面して建つ木造3階建てで、陸屋根(後補の寄棟トタン葺きの屋根を載せる)、外壁はモルタルに吹き付け仕上げ、腰部は深緑色の施釉スクラッチタイルを張られています。大きく隅切りされた隅角部に3本の縦筋を意匠として入れ、他の2面は各階を区切るように浅いコーニス風霧除けを走らせることによって平坦な外壁面を分節するとともに適度な陰翳を加えており、引き締まった外観を形成しています。内部は1階に受付・診察室・タイル張りの手術室と浴室等が、2階には入院用の病室(看護師の居室としても使用)、そして3階には和室3室を備えていました。
1階の診察室の東側壁面に残る大型の壁画は、和作が1965〜70 年頃の改装時の記念に描いたもので、鳩と梨の木で、ポンペイの壁画との類似点もあります。和作の壁画自体が珍しく、また3階の襖にも和作の書が残っています。
Process
「中世からの箱庭的都市」として日本遺産でもある中心市街地もスクラップ& ビルドが進みその姿が徐々に変容されつつあった2020 年頃、老朽化のためにやむなく解体することが検討されていることを知った尾道空き家再生プロジェクトが、尾道市文化振興課の協力を得て保存を働き掛けました。その結果、解体を中止し、プロジェクトが借り受けて修繕工事を行ない、店舗・中長期滞在施設として利活用する方針となりました。
Renovation
歴史的建造物として登録有形文化財の申請を目指し、その歴史を伝えるファサードや和作の壁画は保存されることになり、2022 年からリノベーションを開始しました。雨漏りしていた屋根・雨戸など修繕に始まり、キッチンやトイレといった古くなっていた水廻り設備の改修、内装の変更により良い滞在環境を地元職人さんや述べ100 名を超えるボランティアによるサポートにささえられ実現しました。また、床を上げて和室に改変されていた手術室は数ヶ月に及ぶ慎重な解体と修復により旧状に復されています。建物を残したい所有者の思いと空き家再生プロジェクトの活動が繋がり、まちなか居住の拠点として再生された旧小野産婦人科「オノツテビルヂング」は、次代に継承されるランドマークとしての近代建築であるといえます。
Concierge
「ONOMICHI STAY オノツテ」の利用者には、尾道移住・定住、創業支援をサポートとしていきます。
空き家バンクを含めた物件の紹介・滞在体験、市役所や商工会議所との連携による創業支援、地元青年会議所・同友会やシェアオフィス「ONOMICHI SHARE」、尾道空き家再生プロジェクトを通じたコミュニティとの繋がりづくりをサポートします。